CTO 不在の弊害を抱えるスタートアップ

私が代表を務める株式会社 Authlete(オースリート)(東京都千代田区大手町)では、CTO(Chief Technology Officer;最高技術責任者)不在による弊害が顕在化しております。従業員および株主の皆様にはご迷惑とご心配をおかけしており、誠に申し訳ありません。ここに、当弊害に関する状況整理をおこない、今後の対応策についてご報告致します。

 

1. 弊害内容

『CTO Night』と名のつくイベントへの参加資格が無く、技術系スタートアップであるにも関わらず、技術系イベントでの露出機会を逸している。

 

2. CTO 不在の経緯

2015年9月の法人登記の時点で既に主要製品の開発は済んでいたが、メイン開発者である創業者(会社代表)が CTO を名乗りたがらず、CTO 不在のまま現在に至る。

 

3. CTO を名乗らない理由

優秀な技術者をチームに引き込むため。

自分よりも能力・実績に劣る者が CTO を名乗る会社に、世界レベルの技術者は参画したがらない。

この意図的な CTO 不在作戦が功を奏し、Joseph Heenan 氏(英国)や Justin Richer 氏(米国)など、創業者よりもはるかに優れた技術者が Authlete 社に参画している。

 

4. そもそも CxO が一人もいない

CTO だけではなく、CEO や CFO などの CxO 系の肩書きを持つ者が誰もいない。

「CEO は誰ですか」と質問され、誰かの名前を挙げなければならない状況に追い込まれた場合のみ、書類上の代表取締役が CEO であると返答している。

 

5. CxO がいない理由

創業チームよりも有能なメンバーを新 CxO として迎え入れたいとき、創業チームメンバーがその時点で CxO を名乗っていると、役職交代が政治的に難しくなる。これについては、『起業家はどこで選択を誤るのか――スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ』の「第5章 役割のジレンマ」や「第10章 ファウンダーCEO交代のジレンマ」が詳しい。

想像してほしい。IPO 準備のために財務のプロフェッショナルを CFO として外部から迎える必要がでてきたが、創業時に経費精算を担当していただけの者が CFO の肩書きを譲りたくないと言い出した場合のことを。こうなると、無能な CFO に対して、財務のプロフェッショナルがいちいち説明をおこない、承認を得なければならなくなる。無駄も甚だしい。

CxO という役職は、プロフェッショナルな CxO が必要となるステージに進んだときに、もしくは次のステージに進むためにプロフェッショナルな CxO を立てる必要があると判断したときに、設ければよい。スタートアップ創業初期から CxO の肩書きを乱発して逆ピラミッド型の組織をつくるのは、賢明とは言えない。

 

6. 組織の成長方向

創業チームの CxO が CxO を辞めたがらない場合、組織は下方向に成長する。これを図にすると、次のようになる。

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稀に、スタートアップの創業時から IPO 後まで、全てのステージにおいて凄まじい能力を発揮するスーパー起業家がいて、Microsoft 社のビル・ゲイツ氏や Facebook 社のマーク・ザッカーバーグ氏がこれに相当するが、そのような創業者を持つスタートアップは、組織の成長方向が下方向でもかまわない。

しかし通常は、創業チームのメンバーが全てのステージにおいて最適であることはないので、ステージの変化に合わせ、トップを交代させながら、次の図のように組織を上方向に成長させるのがよい。

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7. 対策

自らが大企業の CEO の器ではないことを自覚しているため、次のステージに進むためにプロフェッショナル CEO を迎え入れたいと思っているが、そのためには、下記のマイルストーンを達成することが必要と考えている。

  • MRR(Monthly Recurring Revenue)のみでの単月黒字化
  • 新 CEO に対する十分に魅力的な報酬を賄えるだけの利益もしくは資金調達

Authlete 社はスタートアップであるが、上場企業の平均年収をはるかに上回る報酬をメンバーに支払っており、新 CEO に対する報酬も妥協するつもりはないので(=「ストックオプションをあげるから低い報酬で我慢してね」と言うつもりがないので)、財務上の余裕が必要であり、上記のようなマイルストーン設定を考えている。

CEO のみならず、本題である CTO 、およびその他の CxO を迎えるためにも、財務上の余裕が必要である。

 

 

 

以上を以って報告と代えさせていただきます。

 

株式会社 Authlete 代表

川崎 貴彦